血抜き徹底 「品質勝負」
日本の遠洋マグロ船が冷凍マグロの品質向上に取り組んでいる。
鍵は冷凍前の処理方法。
ハイテクで血抜きをしたり、予冷をして熟成をはかったり。
安値で売られる輸入物と差別化しようと、様々な試みが始まっている。
東京都大田区の大井水産物埠頭。
浜田漁業部(岩手県宮古市)の遠洋はえ縄船「第88清福丸」が3月、
インド洋でとった250㌧の冷凍マグロを水揚げした。
このうち60㌧分には「極洗マグロ」と書いた青いシールが貼ってある。
「世界初の技術を使ったマグロです」と浜田雄司社長は胸を張る。
通常、漁獲したマグロは、えらや内臓をとって零下60度の冷凍室に入れて一気に凍らせるが、
その前に一手間を加える。
生きたマグロの動脈と尾を切って血抜きをする際、海水をはった特製タンクに入れる。
特殊な装置で極小の気泡「ナノバブル」を水中に発生させる。
酸素濃度を上げて心臓を長く動かし、血抜きを徹底する。
通常の処理では、とったマグロの2割近くの身に血栓やシミができてしまう。
見た目が悪く安値の原因となるが、その発生を防げるという。
昨年5月からの操業で初めて試し、今年2月に東京・築地で開いた試食会では、
しっとりした食感で味も好評だった。
今後3年間は通常品より1㌔あたり50円増しの価格で食品会社と取引する。
浜田社長は「外国船は質より量。我々は質で勝負していくしかない。ブランド化につなげたい」と話す。
インド洋で操業中の遠洋はえ縄船「第88福徳丸」。
今年完成したばかりの新船で、真新しい甲板に容量1・5㌧の水槽が2基取り付けてある。
零下2度近いシャーベット状の氷水を作る装置。
とってすぐに冷凍室に入れる従来の方法だと、死後硬直が起きる前に凍ってしまう場合があり、
解凍後に身が硬くなり味が落ちる。
事前に氷水に浸して半日余り冷やすことで死後硬直を終え、同時に熟成も図る。
今月から効果を実証するための本格運用を始めている。
福徳漁業(宮城県気仙沼市)の亀谷寿朗社長は
「生のマグロに近いねっとりした赤身にできる。『生よりうまい』が目標」と期待する。
このほか、アルコールを使った氷水で急速冷凍をかける方法や、魚体を4分割した状態まで
船上で加工して冷凍する方法など各地で様々な試みが進んでいる。
いずれも、水産庁の漁業構造改革事業や東日本大震災の復興事業を活用して
設備投資に踏み切った。
日本かつお・まぐろ漁業協同組合の佐藤安男常務理事は
「外国船との競合や原油高などへの対応に頭がいっぱいで、
業界の技術革新が滞っていた。新たな挑戦をしていきたい」と話す。 朝日新聞